トータルワークアウトの続きの続き

結局体調が回復するのに二週間もかかりました。歳ですね。

細切れになって終わらないのも気持ち悪いので最後まで書いてみよう。

 

商業ビルの10階にあるジムにエレベータで向かうと、赤を基調としたインテリアでなんとも都会的な受付スペースが現れる。

「さ、先ほどお電話したビジター希望の者ですが…」

受付のお姉さんがにこやかに応対してくれた。

簡単なアンケートに答える間、横に長い受付カウンターの端の方でいかにも「デキる」男感あふれる中年男性が男性インストラクターと次のトレーニングスケジュールをすり合わせていた。

いったい彼は何のためにトレーニングをしているのかという興味は沸いたが、いかんせんビジターなうえにちっともイケてないオッサンなので声をかけることもできなかった。

ピシッと決まった頭髪に、高そうなベージュのジャケットに同色のスキニーパンツ。鮮やかなブルーのマフラーで都会的に決まっていた。

こっちは安売りで買ったアディダスのジャージである。年のころは同じくらいなのに人生とは無情である。

 

悲しみを前面に押し出した表情でしばし待っていると、案内してくれるインストラクターの人がやってきた。小柄で少し痩せ形ではあるけど、インストラクターだけあって人当たりもさわやかな好青年だ。

鍛えたい部位やトレーニング歴をいくつか尋ねられて、素直に答える。なにせインストラクターがつくなど初めてなので、何事もベラベラと白状する他ない。聞かれたら月の性交の回数まで答えかねない勢いだ。

見かけないマシンの使い方を聞きながら、アップセットがてらガシャガシャとすると「フォーム良いですねぇ!そう!その感じですよぉ!」ととにかく褒めてくれる。これは気持ちいいなぁ、さすがに商売でやってるだけはある。

気持ちよくなったついでにずっと疑問に思っていたこと聞いてみた。

デッドリフトのやり方を教えてくれませんか」

一瞬小柄なナイスガイの表情が固くなる。

「専門の者がいるので呼んできます」

緊急事態である。ビジターに気持ちよくトレーニングさせて、あわよくば会員にしようと営業していたらこの注文である。

トーシローの分際でデッドリフトなど口に出したしまったことをやや後悔しながら、バーベルラックの前で一人待たされることとなった。